2015年12月28日月曜日

酒井抱一 夏秋草図屏風 その1

制作の背景
酒井抱一は、尾形光琳の風神雷神図屏風の裏面にこの夏秋草図屏風を描きました。昭和47年に屏風の表裏が分離されることになり、現在では独立した二曲一双の屏風に仕立てられています。

風神雷神図屏風の裏面に配することにより、光琳に対するオマージュとしたものと考えられます。光琳の風神雷神図屏風がさらに俵屋宗達へのオマージュであることを考えれば、酒井抱一の時代で考えれば、琳派200年の壮大なオマージュであったと考えることができ、酒井抱一がもう一つ画いた風神雷神図屏風のことも考えれば、さらに意義深いものです。

酒井抱一は、光琳の風神雷神図だけでなく、もう一つ光琳の作品の要素を取り込んでいるように思います。それは、右上隅の水波の描き方です。光琳の紅白梅図屏風の中央に描かれた水波に共通する要素があるように感じます。加えて、水の群青の表現は、紅白梅図屏風の描画手法の候補の一つとされている金地に群青で画いたというものと共通するものがあります。夏秋草図屏風の場合は銀地であったという違いはありますが。


描かれた植物
この絵には様々な植物が描かれています。左右に共通してあるススキを取り除いて描かれている花だけを抽出しますと、下の図のようになります。


【夏草;右隻】
ヒルガオ
ユリ
オミナエシ
センノウゲ

ヒルガオとオミナエシについては、すぐに同定できます。
センノウゲは、花びらのギザギザの形からナデシコ科であることは容易にわかりましたが、花色がよくあるナデシコの色ではありませんでした。さらに調べて、現在では珍しい花であるセンノウゲ(仙翁花)であることがわかりました。

最後のユリは、花を見ると明らかにテッポウユリのように思います。テッポウユリは南西諸島や九州南部が原産ですが、江戸時代には園芸植物として江戸で栽培されていたことがわかっています。しかし、気にかかるのは葉です。この葉は、テッポウユリのものとは違って、どちらかと言えばササユリの仲間の葉のつきかたです。

【秋草;左隻
ツタ
クズ
フジバカマ

フジバカマは墨で描かれているため、ちょっとわかりにくいですが、ツタとクズは明白です。加えて、いずれも極めて正確にそれぞれの植物の特徴を描いています。
風に吹かれて、クズの葉の一部は裏返しになっています。それによる2つの色調の緑色が、心地よいリズム感を与えています。

【右隻と左隻のススキ】
ススキは右隻(夏草)と左隻(秋草)に共通していますが、それぞれの季節や天候の状況をよく反映しています。
まず、右隻(夏草)では、夕立の後に雨水の重みでまだ柔らかい茎や葉がしなだれている様子が描かれています。
これに対して左隻(秋草)では、穂がたち、葉や茎が十分に硬くなったものが野分の風に吹き流れている様子が描かれています。茎や葉の付け根は夏と比較して強度がましていますので、風に対して抗っているように見えます。
また、右隻と左隻のススキの葉を観察しますと、葉の表と裏の色の違いが正確に表現されていることがわかりますし、周辺部の一部を除いて、葉はいずれも茎とのつながりが明確に描かれており、宙ぶらりんの茎との関係を持たない葉は一つもありません。そのことが、それぞれのススキの葉先にまで生命力を与えている結果となっているように思います。

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