作曲年代は、ケーテン時代とする説とライプツィヒ時代(1730年から31年にかけて)とする説があり確定的ではありません。
後に2台のチェンバロのための協奏曲BWV1062に編曲されて残っています。これは、エマニュエル・バッハなどの子供達や弟子たちの教育用として用いたものと思われます。
ヴァイオリンのものとチェンバロのもので比較すると、ヴァイオリンは長い音を持続的に出せますが、チェンバロは撥弦楽器ですので、いったん音を出したら、持続させることは困難です。その点で、第2楽章の旋律の演奏を考えると、ヴァイオリンのための協奏曲のほうが、この曲には合っているようにも感じます。
ここではバッハの緩楽章の中で最も美しいものの一つと言われている、第2楽章について少し検討してみましょう。
この楽章は、2挺のヴァイオリンが旋律を互いに織りなして行くのを、リピエノと通奏低音が和声的に控えめに支えるという基本的な構造をしています。緩楽章では、このようなしっかりした支えの上に独奏楽器が豊かにふるまうことで、印象に残る音楽となります。
さて、2挺のヴァイオリンはどのように絡み合っているのでしょうか?
ごく基本的な点を、冒頭から探って行きます。
図1 BWV1043 第2楽章 冒頭 |
冒頭はヴァイオリンIIの順次下行旋律で始まり、2小節後からヴァイオリンIが5度上で追いかけるという、典型的なフーガのスタイルをとります。赤い○で示した部分が旋律の冒頭を示しています(図1)。
そのような追いかけが、8小節からは、2つの声部の間隔が短くなり、音程も2度上から始めて、交互に繰り返すという、2度のカノンのようなものに変化します。図2では、薄いサーモンピンクの○で示している部分です。
図2 BWV1043 第2楽章 8小節〜 |
このように対位法的な手法を柔軟に使っています。
もう一つ注目すべきなのは、一つの旋律内で、旋律の小さな塊が順次上行や順次下行を行っているという点です。
8小節から始まる2つの声部の交互の2度上行だけでなく、同一旋律内にもそのような順次上行、下行が潜んでいるのです。
つまり、声部間のレベル、旋律の骨格レベル、旋律内のミクロなレベルに、順次下行(および順次上行;2つは等価)が潜んでいる訳です。
2つの蝶(モンシロチョウのような小型ではなく、オオゴマダラのように大型で優雅に飛ぶ蝶)が飛び交う様子を想像すると良いと思います。
オスとメスの2頭のオオゴマダラが高さを変えながら飛び交います。その全体の動きの中、一回羽根をうちおろすごとに、波のように高さを変動させながらも、次第に高く(あるいは次第に低く)なっていくようなイメージです。
さらに細かく分析すれば、この曲のさらに深い構造が見えてきますが、2つの旋律をこのようにイメージすることだけでも、この作品の理解が深まると思います。
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