2016年6月22日水曜日

奈良国立博物館 特別陳列 近代和紙の誕生

67日から73日まで奈良国立博物館で
特別陳列 和紙 〜 近代和紙の誕生 〜
が行われています。特別展ではありませんので、通常料金で入館でき、奈良博、京博などの年間パスポートがあれば、通常展扱いで年間パスポートを提示すれば何度でも入ることができます。

博物館ホームページやパンフレットからは明治時代に吉井源太の努力で近代和紙が誕生することについて展示がなされるような印象を受けますが、実際には、それに加えて、紙の文化財の紙質調査と修理に関連するものも展示されています。

その中に、2種類の簀桁(すげた)が展示されていました。一つは江戸時代に使われていた「御用手漉き桁」、もう一つが江戸末期から明治にかけて吉井源太が工夫して使うようになった簀桁です。この2種の簀桁の違いはサイズにあります。
江戸時代の「御用手漉き桁」は小判紙2が漉けるサイズなのに対し、吉井源太が新たに作った簀桁は小判紙8が漉けるサイズで、このサイズが現代まで和紙のサイズとして多く使われるサイズになっています。

注:桁だけを示す用語は「漉桁」で、簀と漉桁を一つにまとめて指す用語が簀桁です。 

吉井源太は生産効率を高めるため、一度に漉ける紙のサイズを大きくするため、簀桁を大きなものにしたのです。

サイズを大きくするのは簡単なことと思われがちですが、よくよく考えてみると、とても大きなテクノロジーのブレークスルーが必要だったと思います。

その一つが簀(す)の平面性を保つための工夫です。トロロアオイでネバネバした水に繊維を浮遊させたもの(紙料水)を簀桁にすくい取り、最終的に形成される紙の厚さを均一にするには、簀の平面性を保つことが必要です。
そのため、桁を予め山形(中央が盛り上がった形)にして、紙料水をすくい取った段階で簀が平面になるように工夫されています。これは江戸時代の小判紙2枚サイズの「御用手漉き桁」でもすでにそのような工夫がなされているという解説がありました。

この紙料水をすくい取った際の簀の変形は、簀桁のサイズが大きくなれば、より大きくなります。そのため、簀を支えるのに、枠だけでなく、桁の中にも桟を入れて支えています。その支える部分が木の桟ではなく、まっすぐ張った針金で、それを下部の桟が支えるようになっています。展示されていた簀桁では、そのような桟が11本ついていました。この部分は和紙の中に透かしのような模様で確認できます。江戸時代の小さな「御用手漉き桁」でも同じように桟が3本ありますが、木製の桟が直接支えるようになっていました。

もう一つ工夫が必要であったと私が思っていますのが、大きなサイズの簀を作ることです。
簀は、簡単にいえば、巻きずしを巻く際に用いる「巻き簾」のようなもので、竹ひごをすだれ状に編んだものです。「巻き簾」とは異なり、とても細い竹ひごを緻密に編んであります。

吉井源太が工夫した小判紙8枚が漉けるサイズの簀については、実物が展示されていました。それを詳しく観察すると、本当に細い竹ひごでした。
これに関して私が疑問を持ったのは、竹ひごの節はどのように処理したのかという点でした。観察した竹ひごには、節に相当する部分は全く見つからないように感じました。その一方で、細い竹ひごに継ぎ目があるように見える箇所が随所に見られました。

江戸時代の小判紙2枚のサイズなら、竹ひごを作るのに節を避けた一つの節間だけで作れるでしょう。ところが、小判紙8枚のサイズでは、どのようにしても1本の竹ひごだけで、全体を作ると、間に節の部分ができてしまいます。

特別陳列にはそれに関して何も説明がなかったのですが、
越前和紙のホームページにそのことについての言及がありました。


その解説によると、やはり簀に使う竹ひごは、節を避けるため、数カ所で接合しており、「ちょんつぎ」、「ねりつぎ」、「ふりつぎ」などの方法があるそうです。

奈良博で観察した簀の竹ひごに継ぎ目があるように見えたのは、そのような「つぎ」の部分だったようです。その継ぎ目はとてもスムーズで、和紙という素晴らしい工芸品ができるまでには、その背景に用具製作への高度なテクノロジーがあるのだと実感しました。

この簀は、何度も修復や糸の編み直しの跡があり、物を大切にする日本の職人の技術が和紙工芸を支えていることを実感しました。



2016年6月15日水曜日

あくまき

あくまきは南九州、もっと具体的に言えば、旧薩摩藩のエリアとその周辺で端午の節句前後に食べられるお菓子です。

あくまきは、灰汁(あく)+巻きのことで、もち米を灰汁の中につけて下処理したものを竹の皮にくるんで煮込んだものです。

あくまき

中国料理の粽(ちまき)と関係があるものとされていますが、正確な起源については不明です。西南戦争の際に西郷軍が兵糧食として持参し、その保存性の高さから、熊本地方でも作られるようになったとも言われています。

灰汁はアルカリ性ですので、アルカリ性食品であるから健康によい食べ物とも言われていますが、南九州以外の人々にとっては、灰汁にもち米を浸すことと食物との間につながりがどうしても考えにくく、さらに、たまたま入手しても食べ方が皆目わからないと思います。そこで、食べ方を説明します。

まず、保存法
アルカリ環境で煮込んでいますので、保存性は高いのですが、入手後は冷蔵庫、もしくは冷凍庫で保管します。ところが、そのように保管すると、煮込んでα化していたもち米のデンプンがβ化してしまいます(中央部に硬い芯ができる)ので、食べる前に、あくまきを十分な時間煮沸させます。(電子レンジでも良いかもしれませんが試していません)。あくまきがしっかりした真空パックに入っていれば、パックのまま煮沸してかまいませんが、ラップでくるまれている場合には、ラップを外して、煮沸しても内容物が出てくることはありません(もともと、製造の最後の工程がそのような煮沸処理であったからです)。

そうやって温めたものが、上の写真です。これの竹の皮を広げると、下の写真のようになります。

あくまき 竹の皮を拡げた状態

ぶよぶよした茶色のものが現れますので、ここを食べます。竹の皮からはがす際には、手を水で湿らせて扱うと、処理しやすくなります。

次に、竹の皮の端の数ミリを紐状に割きます。その竹の皮の紐を使ってあくまきの塊を数片に切り離します。あくまきの後ろに紐を通して、交叉させると、とても簡単に切り離すことができます。写真の右端に切り離す途中の竹紐を示しています。
この際に、真ん中に芯があれば、さきほどの煮沸が十分になされなかったことを示しています。
あくまきを包丁で切るのはとてもむずかしく、竹の皮の紐を使う(あるいは木綿糸を使う)ほうがとても簡単です。

あくまき 竹の皮の端を割いて用意した紐を使って切り出す


最後にこの塊に、きな粉と、好みによって砂糖(できればきび砂糖)を混ぜたものをまぶして食べます。

お皿にあらかじめきな粉を敷いておいて、そこにあくまきをのせるほうが扱いやすいと思います。ちなみに、物産展などであくまきを買うと、きな粉をつけてくれます。

あくまき 切り分けたものをきな粉と砂糖を混ぜたものにまぶして食べる

以前は、それぞれの家庭で作るもので、灰汁が適切なものでなく(樫や椿などの硬い木の灰が良いとされています)、えぐみが強いものもありましたが、物産展などでお菓子屋さんが販売しているものは、とても食べやすくなっています。


あくまきに合わせて端午の節句の食べ物として南九州で欠かせないものが、「かからん団子(だご)」です。柏餅の餅を柏の葉ではなく2枚の「かからん葉」(サルトリイバラの葉)で包んだものです。サルトリイバラでくるむ団子は南九州に限定された食品と思っていましたが、西日本を中心にかなり広く分布しているようです。むしろ、「柏の葉」のほうがサルトリイバラの葉の代用としてサルトリイバラの葉を大量に入手できない江戸で使われるようになったという説もあるようです。
サルトリイバラSmilax china サルトリイバラ科(またはユリ科)2015年7月 京都府立植物園

サルトリイバラは根、葉、実ともに漢方薬や生薬として使われていますので、サルトリイバラの葉で団子をくるむことは、理にかなっているものかも知れません。
御菓子処 おくた (奈良市)のかしわもち



SonyノイズキャンセリングヘッドホンWH-1000XM4のトンネルボコッ大幅改善

 SonyノイズキャンセリングヘッドホンWH-1000XM4では、新幹線でのトンネル出入りの際のボコッが、WH-1000XM3と比較して大幅に減少しているようです。 山陽新幹線・九州新幹線ではトンネルが多いため、高速でトンネルに入ったり出たりすると、車内の気圧が急激に変動するため...