2017年8月27日日曜日

奈良国立博物館 源信 特別展


8月26日の奈良国立博物館 雲がきれいだったので、iPhoneで撮影

奈良国立博物館では源信 地獄・極楽への扉 特別展が開催されています(9月3日まで)。

「往生要集」の著者であり、浄土信仰の普及につとめた恵心僧都源信(9421017)が奈良の当麻寺の近くで生まれ、1000年忌を迎えたため、開催された特別展です。
極楽浄土を具体的に示すため、阿弥陀如来来迎図や来迎の様子を演劇的に示した迎講を創案したのも源信とされています。

死に際して阿弥陀如来が来迎する様子を具体的な像として示したものとして京都即成院の二十五菩薩坐像(重要文化財)のうち6像が展示の前期と後期に分けて展示されました。

前期展示
  徳蔵菩薩 (載金の痕跡あり)
  普賢菩薩
  宝蔵菩薩 (載金の痕跡あり)

後期展示
  日照王菩薩
  衆宝王菩薩
  薬上菩薩 (載金の痕跡あり)

これらの多くはそれぞれが様々な楽器を演奏する瞬間が描かれており、全体としてサイズなどが統一されており、いずれもふくやかなイメージを持ちながら、それぞれの像は個性をもって表現されています。
演奏されている音楽が聞こえてくる感じを受けます。

即成院では、ひな壇の狭い空間に置かれており、群像として正面からしか拝観できませんが、この特別展では、360度全周から観察でき、背部から見ても正面のダイナミックな動きが破綻なく感じられます。

平安時代の代表的仏師である定朝の流れをくむ仏師が作ったものと考えられており、いずれも寄木造の美しい像でした。


現在では、ほとんど装飾が見えませんが、載金が一部の仏像に見られることから、完成当時は見事な彩色が施されていたのでしょう。

2017年8月24日木曜日

Nikon D850の動画のスペック

Nikon D850が正式発表になりました。機能、静止画、動画ともに魅力的なスペックとなっているようです。

動画(特に4K動画)についてスペックをまとめてみました。

3840×21604K UHD):30p (29.97fps)/25p (25fps)/24p (23.976fps)
FXベース(フルフレーム)およびDXベース(スーパー35mm相当)が可能。

フレームのサイズは、FXベース、DXベースとも、ほぼそれぞれのサイズいっぱいになっているようです。

45.7MPセンサーからの4K UHDですので、フレーム全体をサンプリングし縮小しているのか(ダウンサンプリング)、間引いているのか(ピクセルビニング)が気になりますが、Nikonの公式発表には見当たりません。dpreviewではピクセルビニングと暫定的に推定しています。
画質にどのような影響が出てくるのか気になるところです。

FXベースでのフルフレームとなると、ダウンサンプリングを行うには、莫大な画素の読み込みを行わなければならず、現在の技術水準では全画素サンプリングは不可能なのではないかと思います。
全画素サンプリングを行うには
FXベースで8256×4640ピクセル(3830万画素)
DXベース5408×3040ピクセル1644万画素
を最大30p (29.97fps)で取り込んで処理しなければならないわけでなかなか大変です。

その一方で、動画撮影中の静止画撮影が可能で、その際に切り出すことのできる静止画のサイズ(サイズL)が、上記のピクセルとなっています。
ということは、一時的であっても、30p (29.97fps)のフレームインターバルの間に、全画素サンプリング(最大8256×4640ピクセル)を行うことは可能であることを示しているようにも思います。

FXベースではピクセルビニングだが、DXベース(スーパー35mm相当)では全画素サンプリングのオーバーサンプリングであるという(Sony α7RIIのような)規格であれば、とても魅力的なスペックになると思います。

動画撮影時には、電子手ぶれ補正が効くとの解説がありますが、これはHD撮影時に有効で、4K動画には関係ありません。また当然のことながら、その際のHD動画のフレームサイズは、少し狭くなります。

Logγモードはないが、“フラット”モードがあって、それがグレーディングに使えるのではないかとdpreviewでは考えています。

ビットレートは約144 MbpsMOVもしくはmp4規格のようです。
HDMI端子からは、4228bit4K UHD非圧縮出力が出せます。


2017年8月9日水曜日

酒井抱一 夏秋草図屏風 その6 フラクタル構造

1年半ほど前になりますが、酒井抱一の夏秋草図屏風について分析しました。

まず
酒井抱一 夏秋草図屏風 その1

では、描かれている夏草や秋草について分析し、さらに、夏秋に共通に描かれているススキには季節の違いがしっかり描かれていることを明らかにしました。

酒井抱一 夏秋草図屏風 その2


では、夏草(右隻)のススキと水たまりの分析を行いました。


酒井抱一 夏秋草図屏風 その3


では、秋草(左隻)の風が支配する躍動の世界について分析しました。

酒井抱一 夏秋草図屏風 その4 円環


では、左隻と右隻をつなぐ大きな円環構造を明らかにし、
左隻(秋草)が密度の低い空気による数秒間の時間を描いているのに対し、
右隻(夏草)では、密度の高い液体(水)による1時間程度の時間を描いていることで、夏と秋とが対比的でありながらスムーズに楕円環をドライブしていることを示しました。

酒井抱一 夏秋草図屏風 その5 すすき


では、それまでに分析で明らかになった、酒井抱一の夏秋草図屏風の特性が、この作品に固有のものであることを、同じススキを題材にした、大正昭和期の木島桜谷の屏風絵「薄」と比較することで明らかにしました。

そして、酒井抱一の夏秋草図屏風には、ある構造が潜んでいることを暗示したままにしておきました。

今回は、その構造が何であるかを明らかにします。


出発点は、第4回の円環構造です。



この楕円は、夏秋草図屏風の基本構造で、動的にも静的にも意味のあるものです。

この楕円の大きさを、黄金比[1 : (1 + SQRT(5))/2]およそ1 : 1.618..の割合で、縮小していきます(つまり、もとの楕円の長径と短径をそれぞれ1/6.18..にする)。この操作を何回か繰り返しますと、同じ割合で縮小する複数の楕円が作られます。
それを構図のいろいろな所にフィットさせて行きます。
そうすると、以下のようになります。

ススキの茎や葉、オミナエシの茎などがこの黄金比で縮小した楕円に見事にフィットしていくことがわかります。フィットさせていないススキの葉も、いずれかの楕円にフィットさせることができます。

このことが意味していることは:
「夏秋草図屏風」には、黄金比で順次縮小されていく楕円の基本構造がある
ということになります。

黄金比は平方根で表現される比ですから、そんな数学的に難しい比を江戸時代の画家が使うはずがないという反論があると思いますが、黄金比は最も美的に考えられる比として、古代ローマやギリシャの彫刻をはじめとして、多くの美術作品に認められる比です。

また、大局構造、様々な中間構造、さらには微細構造の隣接する階層の比が黄金比の一定の比で構成されていることは、画面全体と各階層における部分とが自己相似になったフラクタル構造であることを示しています。

つまり、「夏秋草図屏風」には、明確なフラクタル構造があるのです。

自然界にもたくさんのフラクタル構造があります。中でも、シダ植物の葉が典型的ですし、最近では、カリフラワーの一種、ロマネスコが自己相似の典型的な構造をしています。

フラクタルの概念は、江戸時代にはまだ生まれていなかったのですが、全体構造からはじめて、一定の割合で縮小した部分構造を順次構築し、微細構造にまで至るというデザインセンスがあれば、自然にフラクタル構造が形成されていきます。

ただ、ここでは、黄金比で順次縮小した楕円が「夏秋草図屏風」の構図にあてはまることを示したものであり、
他の比(例えば、白銀比(1:SQRT(2)) )の比率や他の任意の比率でもあてはまる可能性を排除するものではありません。楕円は局所的な曲率が順次変化しますので、構図に当てはめやすいという問題があります。
さらに検討する必要があります。

少なくとも、この分析で言えることは、

  1. 酒井抱一の「夏秋草図屏風」は、全体構造から微細構造まで何段階かの階層があり、隣り合う階層の基本となる楕円は、正確に黄金比であるかどうかは別として、一定の比率で縮小されていること。
  2. そのような階層的構造は、日本画に普遍的に存在するとは限らず、例えば、木島桜谷の屏風絵「薄」にはそのような構造がない(別のルールによる階層構造が存在する可能性はある)


酒井抱一の「夏秋草図屏風」の構図にバランスの良さを感じ、精緻さも感じられるのには、このような階層的基本構造があることが大きいと思います。


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