今年のノーベル物理学賞は、重力波の初めての検出に関するものでした。当然と言えば当然の授賞であったと思います。
ただ、その事象が、ブラックホール同士の合体によるものだったことは、ある意味で、残念なことでした。
ブラックホールは重力(波)以外の電磁波の情報を外部に出しませんで、この合体に対応する電磁波が観測されなかったのです。
重力波を発生する仕組みとしては、2つのブラックホールだけでなく、2つの中性子星の合体も理論的には考えられます。中性子星の合体では、付随してあらゆる電磁波の現象が生じるものと予想され、重力波だけでなく電磁波(電波、赤外線、可視光、紫外線、X線、γ線)で生じている事象が観察できるため、そのメカニズムの推定のための情報がより多く得られるものと期待されてました。
中性子星の合体を8月に観察したらしいという噂はすでに飛び交っておりましたが、Science誌の2017年10月16日号に、そのような電磁波観測まで含めて論文とEditorialのような解説文が合計9編まとめて発表されました。
Merging
neutron stars generate gravitational waves and a celestial light show
の解説文から全論文にアクセスできます。
電磁波の観察には、日本の研究者も寄与したとのことで、重力波天文学のゴールデンエージに差し掛かったと言えるでしょう。神岡のKAGRAが稼働開始すれば、発生源の範囲をさらに狭めるのに貢献し、理論で予想された現象を確認し、また、従来の理論では説明のつかない点から、新たな理論が構築されるものと思います。
2年前のブラックホールどうしの合体には、電磁波現象が伴わないので意義の少ないものであったかというと、決してそうではありません。
今宇宙に存在しているブラックホールには、星が重力崩壊して生じる、“小型”のブラックホール(恒星質量ブラックホール)と、天の川宇宙の中心にある“超巨大”ブラックホール(超大質量ブラックホール;太陽質量の105〜1010倍程度の質量)があり、それらの中間が発見されていませんでした。“小型”のブラックホールが合体して“中型”ブラックホールとなり、さらにそれが合体して“巨大”ブラックホールのであろうという一つの筋書きはありましたが、それならば“中型”ブラックホールが発見されても良いはずです。それが今まで見つからなかったということが、この筋書きに問題がある可能性がありました。
ところが、この“中型”ブラックホールがそれより小さいブラックホールの合体で生じることを示した重力波が検出されたことで、太陽質量の10〜100倍の範囲のブラックホールの存在とその成因が確認されたことになります。“ミッシングリンク”が少し埋められたわけです。
重力波の検出による“中型”質量ブラックホールの発見とは別に、銀河中心から少し離れたところに、10万倍太陽質量程度のブラックホールも存在することが慶應義塾大学の研究者によって明らかにされています。これは、“超巨大”ブラックホールの少し手前の質量のブラックホールと考えられ、“ミッシングリンク”を巨大なほうから少し埋めたことになるでしょう。今後の研究でさらに中間のブラックホールが発見されれば、新たなことが解明されると思います。
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