2019年4月19日金曜日

ノイズキャンセリングヘッドフォン Sony WH-1000X M3

山陽新幹線・九州新幹線で新大阪〜鹿児島中央駅を往復することが度々あります。

東海道新幹線と比較すると山陽・九州新幹線では、列車内の走行音による耳の疲れが激しいように感じました。
これは
1. 巡航速度が山陽新幹線では300キロであること
2. トンネル区間が多く、加えて、トンネルと地表区間の移り変わりが激しい
の2つが原因と思われます。

そこで、ノイズキャンセリングヘッドフォンを使ってみました。
使ったのは、Sony WH-1000X M3です。

その効果はてきめんで、騒音が渦巻く世界から、座席がマッサージチェアになって、かすかな電動音と振動を感じるような状況にまたたく間に変化しました。

ノイズキャンセリングだけでも十分に静かになりますので、音楽を聴く際にも、ボリュームを上げる必要はありません。
新大阪から鹿児島中央に行く際には、リュリのオペラ「ファエトン」を全曲まとめて聴き、帰りには、ハイドンの弦楽四重奏曲の中期の作品を聴いてとても楽しく過ごせました。疲れ具合については、今回は特別に疲れる他の要素がありましたので、単純には比較できませんが、耳の疲れは少なかったように思います。

どれほどのノイズキャンセリング効果が生じるかを、

Sony WH-1000XM3 Noise Canceling


にアップしておきました。

これは、博多から小倉までの室内走行音を録音し、それを再生した環境の中で
ノイズキャンセリングヘッドフォンを装着し、ヘッドフォンと耳の間に
ミニチュアマイクロフォンを挿入して、ヘッドフォン内のノイズキャンセリングされた音を録音したものです。


周囲音が大きくカットされていることがわかります。
なお、レベルメーターで確認すると、ノイズキャンセリング時にも大きな音レベル
が生じています。これは、ノイズの音ではなく、そのほとんどが、被験者である私の心拍動によるヘッドフォン内の気圧の変化を捉えているものです。
100Hzあたりでカットオフしてもこの大きな影響を打ち消すことができず、そのようなフィルター操作を行うことは、フェアな実験ではないので、そのままの音声にしています。


これで相当なノイズキャンセリング効果が生じることを確認した上で、実際に新幹線内で使用したのですが、このシミュレーション実験では、ある重要な要素を再現できていないことがわかりました。

それは、トンネル内での微気圧変動の影響です。
トンネルに入りますと、数秒から10秒おき位の頻度で、ポコッというようなポップ音が聞こえます。これは、トンネルに高速で入ると、客室内の気圧が変化することが原因と考えられます。
新幹線の開業当初には、トンネル内での不快な耳ツン現象とされていたもので、列車の気密性を高めることで、大部分は緩和されましたが、ノイズキャンセリングヘッドフォンでは、残存しているわずかな気圧変動に対応するヘッドフォンの反応が、微気圧変動の影響をより際立たせているものと思います。新幹線のトンネル内での車内気圧変動を示した図の気圧変動と、ポップノイズの周期が大まかなオーダーで一致していることで、この考えが支持されます。

まあ、原因がわかれば、それほど気になる雑音でもありませんし、全体のノイズキャンセリング効果のベネフィットのほうが、トンネル内ポップ音の不便さを大きく上回ると私は感じました。

なお、ここまでの経験は、Sony WH-1000X M3のファームウェアのアップデート前の条件下でのものであり、ファームウェアアップデート後のヘッドフォンを使えば、異なる結果が出る可能性があります。

なお、音源の再生は、先日紹介しましたSony PCMレコーダー PCM-A10で、256 GB SDXCカードにFLACファイルを転送したものを再生しています。PCM-A10ではハイレゾのBluetooth送信ができませんが、基礎レベルの送信でも新幹線の車内で聴く程度の背景雑音の中では、十分に実用になります。聴き始めは、生板から、乾燥させて木目と木目の間が凹んだような情報の欠落感を感じましたが、慣れてきて、聴覚が足りない成分を補完しているように感じます。

Bluetoothの送信規格がハイレゾ対応でないことよりも、音源を圧縮していることのほうが、実際に音質上の不満として大きく表面化するようです。
iPhoneのiTunesの音を再生してみましたが、ワイヤレス接続したWH-1000X M3で音質劣化は歴然としていました。
サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」(アンセルメ指揮)の第2楽章では、オルガンの超低音の保続音の上にオーケストラが奏されます。そうすると、圧縮なしのCD品質(つまり、MacのiTunesにアップルロスレスで収録された演奏)を、USB DACに接続したSennheiserのHD 650ヘッドフォンで聴くと、オルガンの超低音の保続音がオーケストラの弱奏に干渉することはありませんが、iPhoneのiTunes(圧縮音声に自動変換される)からワイヤレス接続したWH-1000X M3で聴くと、オルガンの保続音が、オーケストラに干渉してしまい、演奏を著しく濁らせます。オルガン以外のクラシック音楽の演奏でも同様で、iPhoneのiTunesを音源として、WH-1000X M3をワイヤレス接続して聴くというのは、音質劣化を覚悟する場合を除き、あまりお勧めできません。

MacのiTunesにCD音質やハイレゾ音質(96 KHz 24ビットまで)でライブラリを備えている場合には、iPhoneのiTunesを使うのではなく、NW-300Xシリーズのようなウォークマンを使う方法のほうが良いように思います(実際にはまだ試していません)
最近の(といっても数年前からですが)ウォークマンでは、MacのiTunesのライブラリに収録されているロスレスフォーマットを、そのまま転送し、再生できるようになっています。最近まで知らなかったのですが、(96 KHz 24ビットまでの)Appleロスレスも再生できるようです。

NW-300Xシリーズなどを使えば、Bluetooth転送もLDACが使えますし、Macのミュージックライブラリ資産がそのまま使えますので、音質的にも運用性の点でも、大きなアドバンテージになると思います。


さて、バッテリーの持ちの点ですが、
新幹線の新大阪〜鹿児島中央の往復(ヘッドフォンの利用時間の合計約7時間)で、
フル充電から50%になった程度でした。
PCMレコーダー PCM-A10のほうは、途中で充電しましたので、バッテリーの残量が気になるような状況には全く至りませんでした。
いずれも、購入から1ヶ月以内での場合の経験です。




2019年4月5日金曜日

クラシック音楽 関係者に最適のPCMレコーダー Sony PCM-A10


クラシック音楽の演奏家や音楽学に関係している人々にとって、昨年発売されたソニーのPCMレコーダーPCM-A10は、手軽に使えて、便利であり、音質もそこそこ良いという点で、検討してみる価値のあるレコーダーです。

そのことを、
1.録音
2. 音楽再生
3. ワイヤレスヘッドホン(イヤホン)の利用

3つの観点から説明します。

1.録音 (リハーサルの録音
1.1 コンパクトさ
PCM-A10は重さが82g、サイズがおよそ40×110×16 mmと極めてコンパクト、軽量でありながら、最高規格で96 KHz/24ビットの録音が可能です。
これで、ステレオマイクがついていますので、このレコーダーさえあれば、リハーサルの録音をすることが可能です。バッテリーの持ちも、23時間のリハーサルはもちろん、半日以上かかるようなゲネプロでも規格上は問題ありません。

1.2 録音レベルの設定(リハーサル機能)
でも、クラシック演奏の録音では、手軽さの他に、録音レベルがうまく設定できておらず、再生してみると音がわれたり、小さすぎたりするという、問題を抱えていました。それを、PCM-A10では、「リハーサル機能」である程度解決しました。それは、演奏の中で、フォルテシモの部分の演奏を試しに行って、その際に、リハーサルボタンを押します。そうすると、レコーダーが自動的に録音レベルの調整を行って、レベルオーバーにならない範囲で、録音レベルをできるだけ高めに設定してくれます。
後は、そのマニュアル音量設定のまま、録音をすればほぼ最適な録音になります。

実は、これには、もう一つの便利な使い方があるのです。それが、Rec Remoteというソニーが提供しているAndroid/iPhoneのアプリを使って、リハーサル操作を行う方法です。

1.3  Rec Remoteアプリ(手軽にリモート操作)
Rec Remoteアプリでは、録音の各種設定(サンプル周波数やビット数の設定、圧縮モードの設定;録音開始、ポーズ、停止)がとても手軽にできる上に、録音レベルを確認したり、コントロールしたりすることができます。
そして、先程説明しましたリハーサル機能が、このアプリでは、グラフィカルに確認できるのです。Rec Remoteアプリでリハーサル機能を使いますと、録音レベルがスクロールしていきますが、レベルオーバーになると、その部分が赤い色に変化して、録音レベルを自動的に下げて行きます。どの録音レベルに設定されたかも、画面に表示されますので、リハーサルの音量よりも、本番でもう少し大きな音量になる可能性があれば、リハーサル機能を止めた後に、録音レベルを何段階か下げておくことが可能です。
それから、Bluetoothが届く範囲でレコーダー本体とスマホを離しておいても動作しますので、レコーダーは、少し離れた位置においておき、録音操作は演奏する場所で行うことが可能です。

なお、リハーサル機能を使うのもめんどくさい、もっと手軽な録音でもよい。確実に録音されていることのほうが大切なのであれば、
オート録音も可能です。オート録音はスピーチ録音用としてありますが、演奏を確認できれば良い程度であれば、音楽をオート録音してもそれほど音質が悪くなることはありません。Rec Remoteアプリを使えば、リハーサル機能を使ったマニュアル設定と、オート録音の切り替えがとても簡単にできますので、うまく使い分けると良いでしょう。

1.4 ファイルの転送
録音したファイルは、USBを介してPCに極めて簡単に転送できます。標準的なファイル形式ですので、利便性に問題はありません。



2. 音楽再生(CDリッピング、ハイ・リゾリューションの再生)
ソニーでは、一つ前の世代のPCMレコーダー PCM-D100から、録音した音だけでなく、CDをリッピングした素材、さらにはハイ・リゾリューションで市販されている音素材を再生できる機能を備えています。
圧縮したmp3素材はもちろんのこと、AACWAV形式、さらにはロスレス圧縮法でよく使われるFLAC形式の音源が、なんと最高192 KHz/24ビットまでPCから転送して再生可能です。もっとも、192 KHz/24ビットは96 KHz/24ビットまでダウンスケーリングされた上での再生となります。そうは言っても192 KHz/24ビットの曲を購入した場合でも、そのまま転送するだけで再生可能であることはとても便利です。

ここで、ハイレゾ音源は、Windowsでしか使えず、Macユーザーには関係ないものという先入観をもたれておられるかたには、朗報を!
Macでも96 KHz/24ビットのハイレゾ音源が再生できますe-Onkyoなどで、ハイレゾ音源をFLAC形式で購入すると、MacQuick LookQuicktimeプレーヤーでそのまま再生できます(ここでも192 KHz/24ビットであっても96 KHz/24ビットまでダウンスケーリングされますが、再生可能です)。
問題は、iTunesなのです。MacOSiTunesは、FLAC形式を受け付けません。
その問題の解決策として、FLACファイルをAppleLossLess形式にフリーソフトを使って変換する方法があります。FLACファイルもAppleLossLessファイルも、いずれも可逆的圧縮法ですので、mp3とは異なり、情報が失われることは理論上ありません。96 KHz/24ビットのFLACファイルは96 KHz/24ビットのAppleLossLessファイルに双方向に変換できます。そして、その96 KHz/24ビットのAppleLossLessファイルは、iTunesにそのまま登録できます。登録されたファイルの再生で、96 KHz/24ビットのAppleLossLessファイルは、CDリッピングしたファイルとシームレスに活用可能です。
ちなみに、192 KHz/24ビットのFLACファイルは、96 KHz/24ビットのAppleLossLessファイルに変換されますので、これも問題ありません。

ただし、iPhoneなどのiOS系のiTunesには、ハイレゾのファイルは転送できないようです。

3. ワイヤレスヘッドホン(イヤホン)の利用
PCM-A10は、Bluetoothで接続した、ヘッドホンやイヤホン、スピーカーで録音した素材やミュージック素材を再生させることができます。
ハイレゾ素材も再生できますが、CDレベル未満の音質になります。だいたいビットレートの高いmp3素材程度の音質と考えれば良いでしょう。でも、本格的なリスニングではなく、確認用に手軽に素材を持ち出して聴きたい場合には、十分なレベルの音質です。それよりも、環境ノイズの問題のほうが大きくて、出先で確認すること自体が不可能という反論もあるでしょう。

そこで、ノイズキャンセリング・ヘッドフォンの活用です。ノイズキャンセリング・ヘッドフォンは性能が驚くほど進化しています。これについては、別に稿を改めます。

4. 問題点
魅力的なPCM-A10ですが、問題点もあります。96 KHz/24ビットまでで録音再生できるとは言っても、実際にその規格の性能を遺憾なく発揮しているかというと、そうではありません。同じソニーのPCMレコーダーのPCM-D100や一つ前の世代のPCM-D50と比較すると、録音の品質はそれなりです。しかし、それなりとは言ってもそこそこに良い音質で録音できることは間違いありません。普段遣いができるPCM-A10でも、かなりの音質で録音できるとなると、応用範囲がかなり拡がります。PCM-A10の音質の問題のかなりの部分が内蔵マイクの性能に帰着するように思います。PCM-D100の内蔵マイクの音質に比べると明確に劣っていますし、ステレオ感も、PCM-D100は言うまでもなくPCM-D50よりもありません。この問題はワイドステレオポジションにマイクを設定することで、少しは改善されるようです。

再生については、PCM-A10のヘッドフォン出力は、インピーダンスの高い高音質とされているヘッドフォンやイヤホンを鳴らすには、ちょっと非力です。
推奨インピーダンスは16-32オームとされており、300オームもある、ゼンハイザーHD 650では非力さをまざまざと味わうことになります。
ワイヤレスヘッドホンとの接続でも、基本モードのSBCモードしか対応しておらず、ハイレゾモードには対応していません。

しかし、録音にしても再生にしても、そこまで気にするのなら、PCM-D100PCM-D10の本格機を使えば良いのであって、その場合でもPCM-A10はサブ機として便利に使うことが可能です。なにせ、2万円以内で購入できて、重さはわずか80グラム、胸ポケットに簡単に収まる大きさで、スマホからの遠隔操作も可能、工夫すればWalkmanの代役(ミュージック再生機能)も可能とあれば、その便利さには代えがたいものがあるとわかるでしょう。


SonyノイズキャンセリングヘッドホンWH-1000XM4のトンネルボコッ大幅改善

 SonyノイズキャンセリングヘッドホンWH-1000XM4では、新幹線でのトンネル出入りの際のボコッが、WH-1000XM3と比較して大幅に減少しているようです。 山陽新幹線・九州新幹線ではトンネルが多いため、高速でトンネルに入ったり出たりすると、車内の気圧が急激に変動するため...