2014年2月3日月曜日

一筋縄ではいかないショパン 24の前奏曲、op.28 第9曲

ちょっと必要があって、ショパンの24の前奏曲 作品28を検討する必要が生じました。いろいろな演奏を聴く中で、ちょっと気になる点が出てきました。
この曲では、1拍の分割に、三連符(1:1:1)、付点8分音符+16分音符(3:1)、それに複付点8分音符+32分音符(7:1)3種類があります。このうち、自筆譜の研究から、付点8分音符+16分音符(3:1)は、2:1の音価で三連符(1:1:1)3つめの音と同時に演奏するのが適切という説があります。
自筆譜を見ていませんので、これについては、特に何も言えません。
ただ、この曲には、1個所だけ1拍を8分音符+8分音符(1:1)に分割しているところがあります(第1小節;第1拍)。演奏者が付点8分音符+16分音符(3:1)の取り扱いをどうしているかについて調べることに加えてこの部分をどう演奏しているかについて調べて見ました。

しかし、ここで注意しておかなければならないことがあります。それは、ここに書いた1:1:1とか、3:17:1などは、絶対時間で、このような時間比で演奏しているとは限らず、むしろ、3連符の3つの音の絶対時間の比は、1:1:1ではないし、しかもそれが揺らいでいます。ですから、ここで問題にしていることは、3連符の3番目の音と他の音との打鍵のタイミングのずれです。つまり、3連符の3つめの音と、付点8分音符+16分音符の16分音符が同時に打鍵されていれば、2:1の音価で三連符(1:1:1)3つめの音と同時に演奏していると判断することになります。

譜例の図の最上段には、初版(Beritkopf & Härtel1839年ころ)の印刷楽譜を示しています(パブリックドメイン)。この楽譜は、第1小節は普通の楽譜ですが、第8小節の記譜は少しおかしくなっています。8分音符+8分音符の2番目の8分音符と3連符の3番目の音符の位置はずれていなければ適切な楽譜表記とはいえません。
演奏1の列の第8小節のように表記するのが適切なはずです。

ショパン:24の前奏曲 第9曲 第1小節と第9小節


いろいろな演奏を聴いて、確認したところ、

演奏2のパターン【付点8分音符+16分音符(3:1)をそのままの音価で演奏し、第8小節の8分音符+8分音符は2:1の音価で演奏(つまり、三連符と同時に打鍵する)】で演奏しているのは、マルタ・アルゲリッチ、アレキサンダー・コブリンの2012年日本公演、それにダニール・トリフォノフの2013年の演奏会ライブでした。

演奏3のパターン付点8分音符+16分音符(3:1)と第8小節の8分音符+8分音符の両方を2:1の音価で演奏(つまり、三連符と同時に打鍵する)は、マウリツィオ・ポリーニの1974年の演奏、2002年のサントリーホールでの演奏;アラン・プラネスがプレイエルピアノで演奏したもの;ラファウ・ブレハッチ;それにフィリップ・ジュジアーノ(ただし、第8小節の4拍目だけ異なる)でした。

つまり、「付点8分音符+16分音符(3:1)は、2:1の音価で三連符(1:1:1)3つめの音と同時に演奏するのが適切」という説に従って演奏している演奏家もあれば、そうではない演奏家も結構いるということです。
でも、ちょっと、付点8分音符+16分音符(3:1)は楽譜に表記している通りでありながら第8小節の第1拍は、楽譜とは異なるというのでは一貫性がないように思います。そこで、本当にこの楽譜の表記通りに演奏している演奏家がいないか調べてみました。

演奏1(譜面通りに演奏する):クラウディオ・アラウとイーヴォ・ポゴレリチでした。

こんな、細かいことを気にしてもなんにも意味がないのではと思われかもしれません。しかし、演奏家をこのように分類して演奏を改めて聴いてみますと、音楽の表情がずいぶん違っており、そのことに、付点8分音符+16分音符(3:1)をどう扱うかという点が大きく影響を及ぼしていることがわかりました。とりわけ、全体の曲の構成や、複付点8分音符+32分音符(7:1)32分音符にどの程度のアクセントをつけるかに違いがあります。

自筆譜の検討も必要ですし、最新の校訂版の検討も必要ですので、これ以上は何も言えません。それに、どの演奏が正しいとか正しくないと言いたいのでもありません。むしろ、いろいろな解釈(それが適切なものであれば)の演奏を楽しめるのが、クラシック音楽の醍醐味ですし、楽しみでもあります。隅々まで検討された演奏は、自分の解釈とは異なっていても、それなりに楽しめるものです。ただし、いいかげんな読み込みの演奏や、あっちこっちのマエストロの演奏を切り貼りして真似ただけの演奏はいただけませんが。

この付点8分音符+16分音符(3:1)と三連符(1:1:1)の問題については、バロック、古典派音楽に同様のものがあります。C.P.E.バッハの演奏法の著書に記載されていることがその根拠だと思いますが、その場合でも、速いテンポの場合にのみ3:12:1に演奏するようで、スローテンポの場合には、C.P.E.バッハの当時であっても、記譜通りに演奏しているようです。ここで検討していることとは、区別して考えるのが適切でしょう。



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