「音符が多すぎる。(Too many notes!)。人間の耳が一晩に聴ける量は限られている」
これは、映画「アマデウス」の中で、オペラ「後宮からの誘拐」の公演後の感想として、ヨーゼフ2世がモーツァルトに対して語った言葉です。映画の通りではないかも知れませんが、「後宮からの誘拐」に関連して、「音符が多すぎる」と発言したことをヨーゼフ2世の伝記作家が確認しています。さらには「モーツァルトの音楽は、歌手が歌うには難しすぎる」とも発言しています。
これが、批判であったのか、それともモーツァルトへの助言であったのかについては、検討する必要があります。ヨーゼフ2世が望んでいたドイツ語のオペラであったことや、その後もモーツァルトを庇護し続けたことからすると、モーツァルトの音楽を完全否定したものではないことは確かです。
音楽論として重要なことは、批判であれ助言であれ、モーツァルトの音楽が、当時の音楽の主流とは異なっており、どちらかといえば「難解」と受け止められていたことです。
ここまでは、モーツァルトの解説で一般に言われていることです。NHK BSプレミアムのプロファイル番組でも同様に解説されていました。
しかし、これらの論法は、事象の片面しか捉えていません。
つまり、当時に評価の高かった“主流”の作品がどのようなもので、なぜ、それらの人気が高かったのか?という問題です。
モーツァルトの作品だけでなく、当時人気のあった作曲家の作品を比較しないと、
Too many notes!の実質的な解明には至りません。
それでは何を調べたら良いかということになりますが、ちょうど良い作品があります。
それは、モーツァルトの「フィガロの結婚」の初演が思ったほどうまくいかなかったその後で、同じブルク劇場で上演されたマルティン・イ・ソレール(1754 – 1806)のオペラ「椿事Una cosa rara(ウナ・コーサ・ララ)」です。
Part 2では、マルティン・イ・ソレールという作曲家と、このオペラ作品Una cosa raraの成立について解説します。
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