新製品SonyノイズキャンセリングヘッドホンWH-1000XM4が到着しましたので、前機種WH-1000XM3と比較して、音質面でどのように向上したのか、初期印象をまとめます。
1. DSEE extremeとLDACの比較
WH-1000XM4で新しくなったDSEE extremeの音質について検討してみました。DSEE extremeはCD規格の音(44.1 or 48kHz/16bit)を96 kHz/24bitまでアップスケーリングする機能で、このアップスケーリングの際に、AI機能を使い、曲の種類に応じてアップスケーリングの内容を変えるというものです。
Bluetooth音源として、ZX-300(メモリータイプウォークマン;LDAC)と
PCM-A10(リニアPCMレコーダー;SBS)を用い、両方に共通に入っている96 kHz/24bit音源をWH-1000XM4でワイヤレス再生して比較しました。ZX-300からはLDAC(96 kHz/24bit)規格で送信され、PCM-A10からは同じ96 kHz/24bit音源が48kHz/16bitにダウンサンプリングされてSBS規格でWH-1000XM4に送られ、WH-1000XM4でDSEE extreme機能を用いて96 kHz/24bit相当までアップスケーリングされることになります。
もともとが96 kHz/24bitのハイレゾ音源である場合には、LDACと比較するとDSEE extremeでは、音質に明らかな差がありました。DSEE extremeでは、弦楽器アンサンブルの弦楽器の音色のツヤが減って、ザラザラした音になっているという印象です。
ただし、それは、住宅の夜のような静かな環境で、96 kHz/24bitのハイレゾ音源のLDAC送信と比較した場合に、そのような差がわかるという程度であって、新幹線や飛行機の中など、ノイズキャンセリングが効いているとは言え、ノイズを完全に遮断することができない状況で、96 kHz/24bitのレファレンス音源がない場合であれば、DSEE extremeで十分な恩恵が得られるものと思います。
ここでの結論は、96 kHz/24bit以上のハイレゾ音源があるのであれば、LDACを介して良質の音楽再生を楽しめばよいが、そのようなハイレゾ音源がない場合(ストリーミングとか、古い録音でCD規格の音源しかない場合)には、DSEE extremeの効果が十分に期待できるでしょうというものです。
2. LDACでのWH-1000XM4とWH-1000XM3の比較。
ZX-300(メモリータイプウォークマン;LDAC)の96 kHz/24bit音源の再生をWH-1000XM4とWH-1000XM3とで比較してみました。参考として、ZX-300のバランス出力でのゼンハイザーHD-650の直接出力とも比較しました。HD-650自体のエージングは済んでいますが、ZX-300のバランス出力はまだ十分なアナログ回路のエージングをかけていませんので、若干角のある音になっているかもしれません。
音源として使用したのは、
サン・サーンスの交響曲第3番の第2楽章(緩楽章;オルガンの低音通奏入り)、第4楽章(最終楽章;強奏)、カンザスシティ・オーケストラの176.4khz/24bit音源。
シューマン/ブラームスのクラリネット・ピアノ作品Charles West/Susan Grace(176.4khz/24bit音源)
J.S.バッハのオルガン作品(ケイ・コイト(小糸恵)、バッハオルガンマスターワークVol.IV
(192khz/24bit音源)
J.S.バッハのヨハネ受難曲/マタイ受難曲 Dunedin Consort(最少人数の歌手による演奏) (96khz/24bit音源)
ドビュッシーのピアノ作品Michael Lewin (192khz/24bit音源)
などです。
最初の印象は、WH-1000XM4になって解像感が増し、演奏者との距離が近づいたと感じられたことです。ヨハネ受難曲/マタイ受難曲では、合唱のパートが、ほぼソロもしくは2人になっているDunedin Consortの音楽構成がよりはっきりわかるようになりました。一方で、
シューマン/ブラームスのクラリネット・ピアノ作品では、楽章によって、電源ノイズが明らかに聴き取れる楽章がありました。これは、ゼンハイザーHD-650では聞き取れなかったものですが、おそらく、HD-650がオープンエアであり、電源ノイズは、周囲の環境音にマスクされてしまうのに対し、WH-1000XM4では、ノイズキャンセリングが効いているので、音源にあるノイズに築きやすいということがあると思います。それと、ZX-300のバランス出力でもシングル出力でも、ハイインピーダンスのHD-650は十分にはドライブできていないことも挙げられると思います。
総合すると、WH-1000XM4はWH-1000XM3と比較して演奏の解像感が増しているように思います。ノイズキャンセリングの効果が増し、静寂な環境でもノイズキャンセリングに効果があることも背景にあるように思います。
サン・サーンスの交響曲第3番は、ホール全体の空気の振動が感じられるようにするには、ヘッドフォンで再生すること自体が非力です。そのようなホール全体の空気の振動は、実際に演奏を聴くとよくわかります。私は、京都コンサートホールで、異なる演奏団体で2回聴いたことがあります。
この曲のもう一つのチャレンジは、オルガンの重低音の通奏が、録音・再生では、他の楽器の演奏に干渉する場合があることです。多分、アナログ回路の電源余力の問題であろうと思いますが、ZX-300からの直接出力でも、LADCを介したヘッドフォン出力でも、そのような低音によるモジュレーションはあまり感じられません。WH-1000XM4では、最終段のアナログ回路に十分な電源余力があるのでしょう。
3. 注意点(2台同時接続)
新機能の2台同時接続機能は、音楽プレーヤー(ZX-300など)と、スマートフォン(iPhoneなど)を同時に使い、音楽プレーヤーの再生中に、スマートフォンに電話がかかってきたときに対応する際に便利と思われますが、注意点が2つあります
1つは、2台同時接続のようなことが、WH-1000XM3でも限定的ですが可能でした。音楽プレーヤーで演奏を再生しながら、スマートフォンでヘッドフォンアプリを立ち上げて、再生ステータスを確認したり、ノイズキャンセリング機能をセットしたりすることは可能でした。
このWH-1000XM3まで可能であった機能は、ヘッドフォンアプリで2台同時接続機能をONにしなくても対応しています。音楽プレーヤーとスマートフォンを同時接続している際にスマートフォンに電話がかかってきた際に、すぐに直接通話することができないだけです。
第2の注意点は、この新機能の2台同時接続をONにすると、LDACが使えないことです。
1.に書きましたように、LDACとDSEE extremeによるアップスケーリングを同じ音源で比較すると、DSEE extremeと言えども完全ではありませんので、音質にこだわる場合、2台同時接続をONにすることと、わずかな音質低下のトレードオフを検討する必要があります。
4. ファームウェアアップデート
スマートフォンに最新のヘッドフォンアプリがインストールされていると、WH-1000XM4のファームウェアアップデートがすぐに開始されます。アップデートには半時間ほどかかりますので、注意が必要です。
また、WH-1000XM4とWH-1000XM3をヘッドフォンアプリで併用してコントロールことは可能ですが、共用を開始した直後には、ヘッドフォンアプリが正常に機能しないことを経験しました(iOS版)。しかし、私の経験では、それらはアプリを再起動することで正常に機能できるようになりました。
5. ノイズキャンセリングの印象
最初にソニーストアで使用した印象では、WH-1000XM3ではノイズキャンセリングをしても、残っているノイズが、小石のように粒状に感じられたのに対し、WH-1000XM4では、小石のようなつぶつぶ感ではなく、なめらかなノイズに感じられ、残っているノイズがあまり耳障りなものには感じられませんでした。まだ、新幹線の車内のような本格的にノイズレベルの高い環境での使用は行っていませんので、断定はできませんが、ノイズキャンセリングにはっきりわかる改善があると感じています。また、ノイズフロアを抑える効果が静かな環境でも発揮され、その結果として音源にある電源ノイズまで聴き取れるほどであることは、先ほど説明しました。もっとも、電源ノイズや空調ノイズが聴こえるようになったほどの解像感の高まりが、音楽鑑賞にとって良いことなのかというのには、それぞれお考えがあることと思います。
6. WH-1000XM3との併用
WH-1000XM3との併用では、どちらのヘッドフォンか区別がつきにくいと思われます。
その場合には、色を変えれば、当然、容易に区別できます。しかし、どちらか一方の色を選択する場合には、暗い所での区別は容易ではありません。1つのわかりやすい区別は、左ヘッドフォンの内部に、脱着を判断するセンサーがついているのがM4でついていないのがM3ということです。さらに私は、音声ガイドと英語と日本語にそれぞれ異なる設定をしています。それで容易に区別できるようになりました。
それ以上に問題なのが、ケースがほぼ同じであるという点です。上記の区別は、ケースを開けてからしか確認できません。そこで、ケースの表のネット状の部分に、製品別にラベルを
挿入して区別しています。
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