私がリヒャルト・シュトラウスのオペラ「ばらの騎士」の公演を初めて見たのは、1974年のバイエルン国立歌劇場の来日公演でした。
その時指揮したカルロス・クライバーは、オーケストラピットの指揮台から挨拶し、その拍手が鳴りやまないうちに音楽が始まります。
幕があくと、いつもは無機的な感じしかなかった大阪フェスティバルホールに、贅を尽くしたウィーンの貴族の部屋が現れます。やっと手に入れた二階席の後ろからは、ベッドの端しか見えず、元帥夫人(ギネス・ジョーンズ)とオクタヴィアン(ブリギッテ・ファスベンダー)の濃密な様子は全く見えませんでした。
この公演以来、ばらの騎士については、様々な公演を映像で見たり、楽譜の読み込みをしたりなどしてきましたが、未だ難攻不落の存在です。最近は、モーツァルトオペラに熱中していましたので、ついつい意識から離れていました。
ところが、最近の世の中の動きをながめているうちに、突然、フォン・ファーニナルが、以下の旋律とともに浮かび上がってきました。
いずれも、第一幕、元帥夫人の部屋にオックス男爵が押しかけてきて、商人上がりの新興貴族ファーニナル家の令嬢ゾフィーとの結婚を報告し、ついては古式にしたがって「ばらの騎士」を使者に立てたいので適任者の紹介を依頼します。
この際のオックス男爵のアリアに、この2箇所の譜例があります。113、117の番号は練習番号を示しています。
他の多数の美しい旋律を記憶していますが、ファーニナル家の当主に関しては、この旋律しか記憶にありません。
フォン・ファーニナルは新興貴族で歴史ある貴族の系譜をさらに獲得したい。一方で、オックス男爵のほうは貴族としての系譜はあるが、経済的には困窮している。その2者の思惑が一致したところに令嬢ゾフィーとオックス男爵の婚姻があります。
フォン・ファーニナルは、第2幕と第3幕に出演しますが、彼の性格が詳しく描かれているのは第2幕です。
ばらの騎士を迎える際の落ち着きのない行動、決闘事件勃発後のヒステリックに騒ぎ立てるだけで問題解決能力を全く持たない行動として描かれます。
オペラ、特にブッファでは、このように主要キャストではないが、脇役として印象深い動きをする役がいくつかあります。特殊な声質の歌手が起用されることが多いです。
せっかくフォン・ファーニナルの記憶が蘇ったことから、オペラ・ブッファの一つの投影としての「ばらの騎士」を久しぶりに聴き直そうと思います。
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