2018年5月5日土曜日

桜様々 その1 荒川堤関連


今年の桜の見頃は、あっという間に過ぎ去った感じです。
京都府立植物園には、北門から入ってすぐにサクラの品種を多数栽培している区画があります。

そのサクラの一部をまとめてみました。

まずは、荒川堤と関連するサクラ

雨宿(アマヤドリ) 

雨宿(アマヤドリ) 京都府立植物園  2015年4月


雨宿(アマヤドリ) 京都府立植物園  2015年4月


オオシマザクラ系のサトザクラの品種です。大輪の花を下垂させます。

関東有明(または 有明 ありあけ)
関東有明(カントウアリアケ) 京都府立植物園  2015年4月


香りが良い品種で、花弁の縁がほんのり赤く染まっています。花弁にシワがあるのも特徴的。

細川匂(ホソカワニオイ)
細川匂(ホソカワニオイ)  京都府立植物園  2015年4月




品種名からは、香りを期待しますが、実際にはあまりにおいません。

松月(ショウゲツ)
松月(ショウゲツ)  京都府立植物園  2015年4月



大輪、八重咲き、下垂咲き、サトザクラ系。
松月桜(ショウゲツザクラ)や野田大桜(ノダノオオザクラ)とも呼ばれます。

麒麟(キリン)
麒麟(キリン)  京都府立植物園  2015年4月


関山(カンザン;セキヤマ)とよく似ていると言われるようです。


品種名は、同時に撮影した名札をもとにし、さらにネット検索して、それらの画像や解説と矛盾しないことを確認してあります。



撮影は2015
α6000Micro Nikkor 105mmまたはPC Micro Nikkor 85mmで撮影し、Capture One 11で現像しました。


荒川堤

日本の桜の歴史の中で、「荒川堤」(あらかわづつみ)は2つの重要な意味を持っています。

1. 江戸期の品種の収集、栽培
日本には、様々なサクラが自生しており、その中から自然交雑や枝変わりを選抜したり、意図的な品種改良を行ったりして、江戸時代後期には2百数十種の品種があったと考えられています。江戸ではそれらの多くが大名屋敷や社寺に栽培されていました。
しかし、明治維新になって、旧大名や社寺の立場は大幅に低下し、貴重なサクラの品種の栽培環境が次第に荒廃して行きました。
その時、駒込の植木職人、高木孫右衛門が、多数の品種のサクラを収集し、自宅に栽培しました。一方、1885年(明治18年)に荒川の堤防が改修された際に、堤にサクラを植えたいとの住民からの要望をもとに、高木が収集していた78種のサクラが荒川堤に移植されることになりました。
ソメイヨシノだけでなく、様々な色の桜や八重桜が移植されたため、「荒川の五色桜」と呼ばれ花見客で賑わうようになりました。

このように、高木の収集と荒川堤への移植を通じて、江戸時代の貴重な品種が保存されました。

2. ワシントン、ポトマック河畔の桜
1910年(明治43年)に当時の東京市長 尾崎行雄が、日米友好の記念としてワシントンのポトマック河畔に桜を植えようとしたことはよく知られています。この時に贈った桜は、実は、この荒川堤の桜を苗木としたものでした。
最初に持っていった桜には、病害虫がついており、全株焼却処分を受けました。そのため、再度送付することになり、慎重な準備がなされました。
穂木を荒川堤の五色桜(つまり、各種の品種)からとり、サクラの台木は兵庫県伊丹市で準備され、静岡県の興津で接ぎ木が行われました。このようにして念入りに準備された苗木3020本が1912年(明治45年)に横浜から送られ、327日にポトマック河畔に植樹、428日にはニューヨークに植樹されました。

このときに海を渡ったサクラは、ソメイヨシノ1800本、関山350本など、全部で12種類あったようです。それらは、米国の人々によって大切に栽培され、太平洋戦争の苦難の時にあっても、切り倒されたのは4本だけだったと記録されています。

3020本のうち1/3強がソメイヨシノ以外の品種であったことはあまり知られていません。現在では、曙、十月桜、普賢象、関山、おかめ桜、大山桜、白普賢、竹島桜、薄墨桜(根尾の薄墨桜)、枝垂れ桜、それにソメイヨシノの11種が生育していることがわかっています。

この桜は、戦後も日米友好の証として大きな役割を果たしているのですが、荒川堤にとっては、もう一つのエピソードがあります。

戦後の高度成長期に、荒川堤の環境は大きく変化しました。公害や河川改修などの影響で栽培環境が悪化し、さらに、寿命のため樹勢の衰えも目立ち、本家本元の荒川堤の五色桜が消滅の危機に立たされました。
そこで、1952年、1981年と、ワシントンの桜が荒川堤に里帰りしてきました。友好の象徴が太平洋を往復したことになります。

駒込の植木職人、高木孫右衛門の品種の保護がなければ、現在の品種のかなりのものが絶滅していたでしょう。

日本の「桜文化」
しかし、日本の桜について語る際には、品種の多様さだけを論じるのでは不十分です。植物体としてのサクラの周辺には、「桜文化」が咲き誇っています。工芸や絵画だけではありません。花見を楽しむことで、季節の変化を実感します。

日本の桜の豊かな品種は、とりまく「桜文化」の豊かさに反映されますし、「桜文化」が豊かであるからこそ、多くの品種が育成されたとも言えます。


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