2016年3月20日日曜日

「あさが来た」の林檎

NHK朝の連続テレビ小説「あさが来た」はとても素晴らしい作品です。
緻密に作りこまれた構成は、音楽作品のようにも感じます。その点については、後ほど。

史実とフィクションを巧妙に混ぜあわせる中で、細やかな時代考証もされているようです。

その中で、千代の恋のモチーフに使われた林檎が気になりましたので、整理してみました。

劇中で使われた林檎は、全球真っ赤で中型〜大型の林檎でした。真っ赤な林檎としてすぐに思いつくのは紅玉Jonathan)ですが、紅玉にしてはサイズが大きすぎました。次に思いつくのはジョナゴールドです。これなら真っ赤な色と大きさが一致します。撮影に使われたのはおそらく袋掛けした(有袋)ジョナゴールドであったのではないかと想像します。

ところが、ここに大きな問題が生じます。林檎が使われた時は、1895年(明治28年)から1898年(明治31年)のころと設定されていました。

ジョナゴールドの品種が作出されたのは、1943年(昭和18年)なのです。日本への導入はさらに遅く1970年ですので、あの「赤い林檎」がジョナゴールドとは考えられないことになります。ちなみに、ジョナゴールドはゴールデンデリシャスと紅玉(ジョナサン)の交配種です。

ここで、セイヨウリンゴの日本への導入について、いろいろなソースからまとめておきます。(江戸時代以前から栽培されていたワリンゴもありますが、それは別の話しとして)

1868年または1871年にアメリカ合衆国からセイヨウリンゴ75種が導入されました。その後の試験栽培を経て、生産地青森県から東京へ商品として鉄道を使って初出荷されたのが1891年(明治24年)であり、1894年(明治27年)には清国への初輸出を達成しています。
「あさが来た」のエピソードとして、病人のお見舞いの果物であったり、銀行の有力支援者のお土産であったりしたのは、まだ貴重な果物であったその当時の状況をよく反映していると思われます。今に例えれば、近くのスーパーで販売しているリンゴではなく新宿高野や銀座千疋屋に鎮座ましましている高額な林檎に相当するものと思います。

袋掛けを行うようになったのは、1905年(明治38年)からで、その目的は虫害予防でした。

この時代にどのような品種が栽培されていたかといえば、国光(こっこう;Rals Janet)紅玉(こうぎょく;Jonathan)でした。少し後になりますが、1911年(明治44年)の青森県りんご統計では、樹種構成比で、国光(Rals Janet)47.6%、紅玉(Jonathan)が30.3%で、この2種だけで80%近くを占めていました。日本でリンゴと言えば国光か紅玉という状態は戦後まで続いていました。

国光は、あれほどまでに綺麗に真っ赤に色づくことはありませんし、黄色の斑点が目立ちます。

ですから、1895年(明治28年)から1898年(明治31年)という時代設定で赤い林檎というのは、無袋の紅玉であるというのが妥当な推定になります。それをジョナゴールドで代用したのでしょう。

しかし、そこにもう一つ問題が生じます。紅玉の味は、「甘い」というより「酸っぱい」です。よのさんが甘いお菓子は食べなくなり、林檎のすりおろしたものしか食べないという説明に、すりおろした紅玉はちょっとふさわしくありません。ジョナゴールドならそのようなイメージにぴったりですが。

明治から戦後しばらくまでの日本のリンゴの主力品種であった国光と紅玉ですが、現在ではどうなっているのでしょうか?
紅玉は生食すると酸っぱいのですが、製菓用、加工用としては、格別に優れた特性を有しているため、未だに一定量の出荷がなされており、秋を告げる果物として店頭によく並んでいます。一方、国光は市場に出ることはほとんどないそうで、青森県の生産者からの取り寄せでわずかに入手できる程度だそうです。

さて、昨年は、京都府立植物園でニュートンのリンゴ(フラワーオブケント)が初結実しました。残念ながら完熟には至らなかったようです。
8月のはじめに私が撮影したものを紹介します。
ニュートンのリンゴ(フラワーオブケント)
2015年8月1日 京都府立植物園
  
今年の新芽はこのような状態です。
ニュートンのリンゴ(フラワーオブケント)
2016年3月12日 京都府立植物園




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