京都府立植物園に昨年植樹された「ニュートンのリンゴ」が開花しています。
ニュートンのリンゴ(Flower of Kent) 京都府立植物園 2015年5月2日 |
露出補正を行ったのに十分ではなく花や葉が白飛びしていますが、5月2日の眩しい陽光の雰囲気がよく現れています。
「ニュートンのリンゴ」とは、イギリスの偉大な物理学者のアイザック・ニュートン(1642-1727)の生家にあったリンゴを接ぎ木にして世界各地に配られたものです。この木の実が落下するのを見て「万有引力の法則」を発見したとされています。
本当にこのリンゴが法則発見のきっかけになったのかは、確実なことはわかっていません。講演会のご婦人方聴講者にわかりやすく説明するためにニュートン本人が例えにしたという説もあります。
ただ、この木には、そのようなエピソードが本物らしく感じられる重要な性質があります。それは、熟すと実が自然に落下するという点です。
以前から、リンゴの実が自然に落下することがあるのかと、このエピソードには不思議に思っていました。落果性のものであれば、1個のリンゴの落果で閃き、その後の他のリンゴの落果でアイデアを確信することができますね。
この「ニュートンのリンゴ」は、「ケントの花」(Flower of Kent)と呼ばれるイングランド・ケント地方の古くからの栽培種で、ニュートンの邸宅の庭に当時生えていたものの接ぎ木株です。
日本へは1964年に英国国立物理学研究所から接ぎ木苗木が送られて来ました。ところが、その株にウイルスが見つかり、東京大学小石川植物園でウイルス除去処置に成功し、それをもとに、さらに挿し木で繁殖した株が全国に再配布されることになりました。この間の事情については、
東京大学、小石川植物園の記述
がありますので、そちらをご参照ください。
京都府立植物園のものは、2013年に小石川植物園から導入されたものです。
蕾はピンク、開花すると遠目には白花ですが、かすかにピンクがさしています。
ニュートンのリンゴ(Flower of Kent) 京都府立植物園 2015年5月2日 |
ニュートンのリンゴ(Flower of Kent) 京都府立植物園 2015年5月2日 |
小石川植物園は、江戸幕府の小石川御薬園を源流とし、「赤ひげ」で有名な小石川養生所、青木昆陽の甘藷の試験栽培地としても有名です。
「ニュートンのリンゴ」の他にも「メンデルのぶどう」や裸子植物で精子を最初に発見したイチョウの木など、歴史的意義のある植物が多数栽培されています。
もう一つ特筆すべきものが、ソメイヨシノの古株です。
小石川植物園のソメイヨシノは、1875年(明治5年)に植物園として開園した際に、染井村から苗木を運んで植えたという記録があり、苗木がその時何年苗であったか不明ですが、少なくとも2015年で140年経過していることになります。1901年には、この時の何本かの株のいずれかからタイプ標本を採取して学会誌に記録されています。ソメイヨシノの交配の経緯などを議論する際に、遅くとも1875年には、ソメイヨシノの品種が確立していたことを示す重要なエビデンスです。
この「ニュートンのリンゴ」(フラワー・オブ・ケント)が果たして美味しいのかについては、調べてみるとそれぞれ微妙なニュアンスで表現されています。
ケンブリッジ大学植物園では、“not particularly
tasty”と書いてあり、英国人らしい表現ですね。
一方で、落果後に適切な期間追熟すれば美味しいという記述も別のホームページにありますので、そのような影響もあるのでしょう。
フラワー・オブ・ケントは三倍体植物であり、自家受粉はほとんどしませんので、京都府立植物園では長野から花粉を取り寄せて人工授粉させるとのこと。結実して味に関する疑問が解消される日が来ると良いですね。
リンゴが落果するということに関して昔の記憶が蘇りました。
それは、フランスのブルターニュやノルマンディー地方のお酒、シードル(りんご酒)の原料として落果した果実を使うというものでした。
実際にそのことを紹介するホームページがありました。
シードル・フェルミエ(「自家栽培のリンゴで自家醸造する」という意味)
「落ちた完熟りんごを手で拾い選果しながら収穫する」ということが紹介されています。
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